『これが物理学だ マサチューセッツ工科大学「感動」講義』ウォルター・ルーウィン(著)東江一紀(訳)★★★★☆

これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義

これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義

訳者がいけないと思う。
いきなり24ページで???となってしまった。
太陽光は、虹の七色から構成されている。ところがその光は、大気圏を通り抜けるあいだに、空気分子や微細な塵粒子(1ミクロンよりはるかに小さい)を四方八方に飛び散らせる
え?光が空気分子や塵粒子を飛び散らせる???それはないだろう。本当は、
「太陽光は、虹の七色から構成されている。ところがその光は、大気圏を通り抜けるあいだに、空気分子や微細な塵粒子(1ミクロンよりはるかに小さい)によって四方八方に飛び散らされる」
じゃないの?
そしてまた(ほかにも?なところもあったような気もするが)、204ページ。
カーペットに靴を何度もこすりつけたために、あなたと地面のあいだに、もしくは、6メートル先の金属製のドアノブとのあいだに、約3万ボルトもの電位差を蓄えてしまった。6メートルで3万ボルトだから、5000ボルト毎メートルの電位差だ。あなたがドアノブに近づいても、ドアノブとの電位差は変わらないが、距離が縮まるので電場の強さが増す。ドアノブに触れる寸前、1センチほど手前では、3万ボルトにもなる。約300万ボルト毎メートルだ
とあるが、これも理解できない。〈5000ボルト毎メートル〉といううのは電場の強さだろうし、“電場の強さが増す”と言っておいて“3万ボルトにもなる”はおかしいだろう。〈3万ボルト〉は電位差だよね。本当は、
「カーペットに靴を何度もこすりつけたために、あなたと地面のあいだに、もしくは、6メートル先の金属製のドアノブとのあいだに、約3万ボルトもの電位差を蓄えてしまった。6メートルで3万ボルトだから、5000ボルト毎メートルの電場の強さだ。あなたがドアノブに近づいても、ドアノブとの電位差は変わらないので3万ボルトだが、距離が縮まるので電場の強さが増す。ドアノブに触れる寸前、1センチほど手前では、約300万ボルト毎メートルにもなる」
じゃないのかなあ?
どうもこの訳者、よくわかってないんじゃないか、文系か?と思って、奥付を見ると、“北海道大学卒”としか書いてない。東江一紀 - Wikipediaを見ると、やっぱり文系、しかも、いままでの翻訳仕事を見ても、こういう科学系ノンフィクションはこれがはじめてっぽいぞ。


最後の最後にまたやってくれている。389ページ。〈補遺1 哺乳動物の大腿骨 哺乳類の体の大きさになぜ限界があるか〉の中。
こまかい前提は略して、
“dの2乗はl(エル)の3乗に比例するはずで、言い換えると、dはl(エル)の3分の2乗に比例する”((エル)は俺付記 )
これはおかしい。
“dの2乗はl(エル)の3乗に比例する”
ならば、
「dはl(エル)の2分の3乗に比例する」
だろう。
このあとも、かさねて、
“5の3分の2乗倍、つまり約11倍”
“100の3分の2乗倍、つまり1000倍”
と書いている。だいたい
“5の3分の2乗倍”
“100の3分の2乗倍”
は、それぞれ、
〈約2.9倍〉(5^(2/3) - Google 検索
〈約21.5倍〉 (100^(2/3) - Google 検索
なのだ。
“約11倍” “1000倍”
が、それぞれ、
〈5の2分の3乗倍〉 〈100の2分の3乗倍〉
の正しい値ということは、この訳者、分数の訳を間違ってるんだ。つまり、数学だけじゃなくて、英語もわかっていない。これは翻訳家としては致命的だぜ。あ〜あ。


とはいうものの、内容はとてもわかりやすくてよかった。
MITの一般教養物理の講義に基づいているらしく、15の章に分かれており、前半の9章はそれぞれ〈物理学〉〈測定法〉〈重力〉〈圧力〉〈光〉〈音〉〈電気〉〈磁気〉〈エネルギー〉について。第10〜14章は、ご自身の専門分野であるX線天文学について。このへんは、俺としてはとても興味があるのにいかんせんヨーワカラン分野なのだが、それが、この本ではめずらしくよくわかった(ような気がする)。最後の章では、著者の趣味というか、もうひとつの専門分野ともいうべき〈美術〉(と物理学)について。
物理が好きだけど物理をちゃんと勉強したことのない人や、各論ばっかりやってる高校生なんかにおすすめの本。