ひき逃げされた猫を処理させる(する)


スーパーヤマダイからの帰りである。バタバタンという音がしたので見ると、10メートルほど前方で猫がのたうちまわっており、プリウスが普通に走り去っていくところだった。いわゆるひき逃げである。ナンバーは52**(伏せ字はプライバシー保護のためではなく、正確に覚えてないため)。
俺はぼう然とその場に立ちすくしていた。猫は、しばらくのたくっていたが、そのうち動きをとめた。近づいて見ると、眼球が片方とびだしていた。
運よく、そのプリウスは前方の踏み切りで足どめを食らっていた。俺はそこまで行って、運転席の窓をノックした。そこにいたのは60くらいのおっさんである。窓があいたので、「さっき猫ひいたでしょう?」と言うと、「なんかドスンという音はしたけど」みたいなことを言う。「ひかれた猫がみちのまんなかで死んでいるから、責任とらないかんよ」と言うと、おっさんは素直にクルマの向きを変えたのだった。
プリウスに乗ってる人に、それほど悪いやつはいないと思う。少なくともシャコタンの紫シルビアよりは。
おっさんのプリウスは、ちゃんと現場でとまっていた。俺がおいついたときには、おっさんが大きなくしゃくしゃの紙袋と大きめのレジ袋を持ってクルマからおりてくるところだった。
おっさんが紙袋を俺にわたし、「ここに入れてくれんか」と言うので、なんで俺がと思いつつ、この手で猫のしっぽを持って紙袋に入れたのだった。ひょっとしてまだ生きていて、断末魔のあがきで噛みつかれたらどうしようと、おっかなびっくりだった。だが、もうだらんだらんだった。即死だ。出血はあまり多くなかった。きっと、脳挫傷なんだろう。しっぽの長いきれいな黒トラだった。
いま思えば、おっさんはおっかなくって猫をさわれなかったのかもしれない、俺の兄がそうだったように。
おっさんが「火葬場に持っていかなかん。動物の火葬場ってどこにあるかな」と言うので、俺は「やっぱり八事かなあ。まあ帰るで、あとは頼んますよ」と無責任なことを言って、その場をあとにしたのだった。


そういえば、俺がプリウスめざして歩いていくとき、もう一匹の、やや太り気味で轢かれた猫より少し明るい黒トラが、俺のことをじっと見ていたのだった。俺はなにも考えず「おまえの仲間があそこで轢かれてるぞ」と教えてやったのだが、あいつはなにを考えて俺を見ていたのだろう。「おまえがやったのか」という意味なのか、それとも「ちゃんと轢いたやつに言ってきてよ」と思っていたのか。