『野球の国』奥田英朗(著)★★★★☆

野球の国

野球の国

奥田英朗の小説の登場人物は小心者であることがおおい。きっぱり断るべきときに相手を怒らせたらどうしよう…とついつい承諾してしまったり、本当はたいしたことないのに見栄をはって大きなことを言ってしまう。そういう人はどこにでもおりそうで、それがおもしろい。
ところがエッセイや紀行文を読んでみると、奥田英朗その人がまさにそういうタイプであることがわかる。彼のそういうところが、彼の小説のおもしろさの源泉であると同時に、彼のノンフィクションのおもしろみの少なさの理由でもある。
フットマッサージの店に「明日も来たらへんな人だと思われるだろうか」と考えるところがある(実際、その翌日、その店の前をとおるのだが、入る勇気がなくて素通りしている)。が、おれならそんなこと思ってもみない。気に入ればなにも考えずに毎日かようだろう(そして突然やめたりする)。
また、ステーキ屋にはいり前日もステーキだったことを思い出し「あっどうしよう」となるんだが、「まあいいや」とそこで食事をする。おれだったら、たとえ店に入ったあとでもやめるだろう。テーブルについてメニューを見てから店を出たこともある。一人のときだけじゃなく、家族をひきつれていても。言い訳をする必要もない。なにも言わず出てきてしまえばいいのだ。まあ、さすがに注文してから店を出たことはないが。それでも、食事を提供されるまえならサービスの対価としての代金を払う必要はないだろう。
地方球場をめぐる紀行である。おれは野球にまるで興味がない。でも野球そのもの描写は多くない。だから、そんなおれでも楽しめたのだろう。でも野球好きの人ならもっと楽しめたにちがいない。ゆえに4つである。