どうしてこの人はこういう言葉づかいをするのだろうか

1Q84 BOOK 2

1Q84 BOOK 2

を読んでいる。図書館の予約待ちが、俺が予約を入れた時点で、たしか900を超えていた(現在は884件)。なので、別のところから入手した。
久しぶりにこの人の文章を読むと、やはりはじめのうちは比喩の多さやわざとらしさが気になる。でも、それはだんだん慣れてくる。
が、それとは別に、こまかいことかもしれないが、言葉の選びかたで「???」と思うことがときどきある。
例えば、

チェンバー(72ページほか)

これは、この人は銃の「薬室」の意味で使っているのだが、その場合は「チャンバー」と言うのが普通なのではないか。試しにちょっと検索してみると、
google:チェンバー
現時点で、約 179,000 件のヒット。
google:チャンバー
こちらは約 4,700,000 件。こっちのほうがはるかに多い。
たしかに発音は「チェンバー」により近いかもしれないが、そういう表記は一般的ではないと思う。一般的でない表記は読者に「あれ?」と思わせ、リーディングの流れをとめるので、流れをとめたいときには有効だが、そうでないときは不利にはたらく。また、筆者の言いたかった物事とことなる物事を読者がイメージすることも考えられるので、それは書き手としては望むところではないだろう。
ただし、"chamber"にたいして「チェンバー」が一般的な表記になっているものもあるようだ。
ドリフトチェンバー - Wikipedia
よく耳にするのとは別物だ。よく似てる。それはこっち。
ドラフトチャンバー - Wikipedia

大気濃度(214ページ)

俺たちは、「空気密度」という言葉を使っていた。なので「???」となった。
同様に調べてみる。
google:大気濃度
約 13,000 件。下の「大気密度」に比べてずいぶん多いが、ほとんどが「アスベスト大気濃度」関係である。ちなみに、それは大気中のアスベスト濃度のことらしい(環境省_大気中のアスベスト濃度はどれくらいなの?)。だから、これもヘンな言葉である。すなおに「大気中のアスベスト濃度」と言ったらいいのに。
google:大気密度
約 3,860 件。件数は少ないが、あながち間違いではなさそうだ。ただここで検討の対象となっている「大気」とはわれわれの地球をとりまく実際の大気のことで、下の「空気密度」に比べて、ちょっぴり技術的よりの言葉だと思う。
google:空気密度
約 48,300 件。それに対し、こちらの「空気」というのは、対象がもっとミクロで、より科学的な言葉ととらえていいと思う。
以上のことから、少なくとも「大気濃度」というのは、やっぱり「???」な言葉と言っていいだろう。「大気の濃度」というのであれば、問題はないと思う。

光の屈折度(同じく214ページ)

同様に調べてみると、
google:屈折度
約 53,900 件。こんな言葉はないだろう、と思っていたが、そういうわけでもないようだ。だが、これは、レンズの(あるいはレンズとしての)強さをあらわす数値らしい。つまり、レンズの(同)形状(とその材質の屈折率)で決まってくる値で、「屈折率」とは別概念である。したがって、「レンズの屈折度」という言い方は成り立つが、「光の屈折度」は概念として成立しない。
google:屈折率
約 1,500,000 件。ヒット件数も格段の差だ。こちらは、屈折する波の波長と物質の種類とその密度で決まってくる値なので、「大気」の「濃度」が「ほかとは違う」のなら、違ってくるのは「光の屈折度」ではなく、光の屈折率である。


これらの問題は、翻訳本にはありがちなことと思えるが、日本人によって日本語で書かれた本でこういうふうなのは、ちょっと困ります。「文学」だからアバウトでいい、ということでもないでしょう。なにしろ文学者にとって言葉はいちばんの商売道具(または商品)なのだから。