『オリンピックの身代金』奥田英朗(著)★★★★★

オリンピックの身代金

オリンピックの身代金

おもしろかった。
著者にしては珍しい、やや社会派がかった作品。笑えるところより泣けるところのほうがおおい。笑いながらそのまま〈泣き〉に突入というところもある。読み終えたのは昨夜だが、いまでもあの最後の台詞を思い出すと泣けてくるぜ。
東京オリンピックと、その時代。ホンダS600とか、「C調」とか「イカス」なんて言葉とか、軌道にのりだしたのTV放送とか、出稼ぎとか、左翼学生とか、いろいろ出てくる。
なつかしいというのの、もうすこし先にある感覚だ。
おれは1959年10月生まれなので、当時まだ4歳と5歳のさかいめぐらい。「トムとジェリー」が見たかったのに、大人の都合でオリンピックのチャンネルにかえられて悔しかったことを覚えている。あと、あの聖火台の形と、ファンファーレ。ポスターはたぶんあとづけの記憶だろう。それから、ペプシかなんかについていた白いプラスチックのフィギュア。競技ごとの。もちろんペプシなんか飲まないから、もらいもんだろうが、たくさんもっていた。風月堂のゴーフルの缶かなんかに入れて。それをストーブに押しつけて融かしてストーブにあとが残ってしかられたことを覚えている。
そういえば、近所で団地をつくっていた。冬休みのきっと1月に入ってからだろう。建設現場のちかくをとおると、作業員のおじさんが「坊主、お年玉だ、ほれ」とか言ってお金をくれた。家にかえって「お金もらった」と母親に報告したら、しかられた。正月でも帰省しなかった出稼ぎの人だったんだと思う。クニにいる自分の子どもを思い出したんじゃないだろうか。