『不平等社会日本 さよなら総中流』佐藤俊樹(著)★★☆☆☆
- 作者: 佐藤俊樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2000/06/01
- メディア: 新書
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ひとつめ
“1980年代前半までは開業率が廃業率を上回っていたのに対して、それ以降は開業率が廃業率を下回る”グラフを示して、
ちょうど1985年を境にして、新たに企業を起こすことが難しくなっているのである。(中略)「一国一城の主」になる途が閉ざされたのだ。
と書いているが(83〜84ページ)、“開業率が廃業率を下回る”ことだけでそう結論づけることはできないのではないか。廃業してるのは既存の事業所ばかりかもしれない。
ふたつめ
ひとつめは単純な話だったけど、こいつはそうでもない。
ぶちぶちに引用すると構造がわかりにくいので、まずちょっと長いけどまとめて引用しよう(99〜100ページ)。と思ったけど、全体が長くくどくなるので、やっぱり少しずつ区切って引用することにしよう。
それに対して、閉じる力となっているのは、W雇上という職業自体の再生産力の強さである。(中略)
もしW雇上に強い再生産力がなければ、高度成長が終わり、選抜システムへの参入範囲の拡大が終わった後でも、W雇上の閉鎖性が強まることはないはずである。
ただし、W雇上というのは、ホワイトカラー雇用上層:専門職と管理職の非雇用(法人企業の役員を含む)のことである。
ちょっと待てよ。これは対偶を言ってるだけではないか。まずそう感じた。
わかりやすく修飾語を省略して対比してみよう。
- 閉じる力となっているのは、再生産力の強さである
- 強い再生産力がなければ、閉鎖性が強まることはない
もうすこしわかりやすくする。
- 閉じる力(閉鎖性)が強い⇒再生産力の強さ(強い再生産力)
- 強い再生産力(再生産力の強さ)がない⇒閉鎖性(閉じる力)が強まることはない
これでは、いわば論理的な同語反復で、何かを説明したことになっていない。
それから、“高度成長が終わり、選抜システムへの参入範囲の拡大が終わった後”ならば、逆に“W雇上の閉鎖性が強まる”のではないかと思った。なぜなら、新規参入がなくなれば古参の天下だからだ。※
と思ったら、つづけて次のように書かれていた。
教育費の重さは相対的には低下しつづけているのだから、高い学歴を得てW雇上をめざす競争に参加する機会は開かれつづけている。いいかえれば、貧困ゆえに競争に参加できない人たちは減りつづけているわけだから、もし強い再生産力がなければ、可能性の格差を示す指標は「昭和ヒトケタ」世代から少し上昇しているか、横ばいであるはずである。
えっ?ということは、“高度成長が終わり、選抜システムへの参入範囲の拡大が終わった後”とはいえ、まだ参入範囲の拡大はつづいている、ということ?矛盾してるけどそれならわからんでもない。「おおかた終わったけど少しはつづいている」という意味に解釈すれば。だったら、“高度成長が終わり、選抜システムへの参入範囲の拡大が終わった後でも”じゃなくて、“高度成長が終わり、選抜システムへの参入範囲の拡大が終わった後だとしても”ぐらいにしといてもらわんと誤解しちゃうがね。
しかし、それはいいとして、参入範囲の拡大が少しはつづいているのなら「もし強い再生産力がなければ、可能性の格差を示す指標は少し下降しているか、横ばいであるはず」ではないのか。
それならばその対偶で、「可能性の格差を示す指標は{少し下降しているか、横ばい}以外であれば、強い再生産力がある」となって、実際に可能性の格差を示す指標は大きく上昇しているので、QEDなんだが。
と、いぶかりつつ次の段落に読みすすむと、
しかし、現実はそうなっていない。選抜システムが一種の飽和状態に達した後、W雇上は閉鎖化したのである。
え?やっぱり選抜システムは飽和してんの?そうしたら、上でやった論理展開は意味なくなるじゃん。
それに、※で書いたように、「高度成長が終わり、選抜システムが一種の飽和状態に達した(選抜システムへの参入範囲の拡大が終わった)後”ならば、“W雇上の閉鎖性が強まる”のは当然」じゃん?
さらにそのあとに、
ちなみに、戦後になって閉鎖化した階層としてはもう1つ、ホワイトカラー自営(W自営)があるが、W自営には店舗や顧客といった形で、いわば有形・無形の資産の壁がある。戦後の経済成長によっても、この資産の壁は大きく低下しなかったし、出店規制などの政治的な保護もうけている。そうした経済的・制度的な参入障壁はW雇上にはない。したがって、W雇上にはそれ自体、強い再生産力があると考えざるをえない。
とある。
W自営の閉鎖化の原因をそういった参入障壁に帰すのであれば、W雇上の閉鎖化の原因もその選抜システムに帰すことができよう。そして、W自営にそういった参入障壁があるのなら、W雇上とともにW自営にも強い再生産力があるというべきだろう。
この本がおかしいのではなく、おれの理解をこえているのかもしれない。
この本がおかしいのならば、読む価値がないのは当然で、おれの理解をこえているのならば、それはそれで読む意味がない。したがって、これ以上読むのをやめました。