『東京物語』奥田英朗(著)★★★★☆

東京物語

東京物語

主人公は田村久雄。名古屋市守山区出身。昭和34年生まれ(おれと同い年だ)。彼にまつわる6つの短編。1980年と1978年と1979年と1981年と1985年と1989年のお話。
それらの年になにがあったかというと、それぞれ、ジョン・レノンの暗殺、キャンディーズの解散、江川のプロ入り、名古屋オリンピックの招致失敗、新日鉄釜石7連覇と北の湖引退、ベルリンの壁崩壊。それらがお話にからんではいるのだが、しつこくはない。
おれの場合、1980年12月はたぶんレゲエに夢中で、ジョン・レノンはどうでもよかった。下宿にはTVもなかったし(兄が下宿で使ったTVをもっていったのだが、NHK三重テレビしかうつらないので友人にくれてやったのだ)し、新聞ももちろんとってなかったので、知らなかった、というのが本当のところかもしれない。
キャンディーズも関心なかった、というかむしろ嫌い(彼女らのせいではないだろうが[ですます調]の歌詞が気持ち悪い)だったし、野球にもラグビーにも相撲にも興味がなかったので、それらの出来事もまるで知らなかった。
名古屋がオリンピック開催地に立候補したときは「恥ずかしいでやめてくれ」と思ったが、開催都市がソウルに決定したときのことは、ほとんど覚えていない。あいかわらずTVも新聞もない生活だったし、やはりおとなりの三重県ですらあまり話題になってなかったと思う。もっとも、土地の人と話をする機会などほとんどないので、学生たちのあいだでは、といったほうがいいかもしれない。
ベルリンのときは、おれもすでに働いていて、たしかに歴史的に見て大きな事件だとは思ったが、小さくても身近に事件はいっぱいあって、そっちのほうが大変だったのだ。久雄くんたちといっしょだわ。


著者はどこかで、「プロットなんか考えない、自分は人物を描きたい」みたいなことをしゃべっていたような記憶があるが、この本はまさにそれ。大袈裟な仕掛けはない(のでマイナス1とした)が、十分におもしろい。ほとんど一晩で読んでしまった。おとなしめで、さわやかで、ほのぼの。
でも、やっぱり自分のこと書いてるんじゃないか?という気がした。
それから、名古屋弁がちょっとヘンだったなあ。助動詞[だ]が[や]に音便するのは、岐阜の言葉じゃないのか?
あ、そうそう。たしかに守山区は辺境だわ(いま住んどる緑区も辺境だけど)。「名古屋のチベット」て言われるでね。実際、チベット寺院もあるもんでびっくりだわ(強巴林とは│チベット仏教│良縁成就・恋愛成就・人脈開運のチベット仏教寺院 強巴林)。