斜め接着絶縁レール

わが家は名鉄沿線でうるさい。
かつてはわが家のまえに、つまりわが家と線路のあいだに、もう1列住宅がならんでおり、しかも線路より住居1階分ぐらい高いところに建っており、つまり線路はなかば掘割のようなところを通っていて、言いかえるならば線路のわきにはいちじるしく幅の広い土手があってその上に建物があったようなものだった。わが家はその建物のとクルマの通れないような狭い私道ではあるが道1本はさんで建っていた。だから、これほどまでにうるさくはなかったのである。
ところが、線路とわが家のあいだの住宅は立ち退きとなり、それらが建っていた土地は削られて新しく道路ができた。道路ができたので、こうしてわが家は建て直すことが法的に可能になったのだが、きわめて質量の大きい土手の役目をしていた土地が削られ、おまけにその上に建っていた防音壁たる建物もなくなって、電車と直接(ただ空気のみを介して)相対することになったのである。
家を建て直せば、それもなんとかなるかと思っていた。なにしろ前の家は築95〜6年で、歩けば床がフワフワし、大雨が降れば雨漏りしまくりで、断熱もへったくれもなく、外とは土壁と薄いガラス戸でへだてられているだけで、そのガラス戸も隙間だらけ、電車が通ればTVの音が聞こえないのはもちろん、建物全体が震度2ぐらいで揺れたのだった。
しかし、家が新しくなっても、窓を開ければ同じだった。うるさい。さえぎるものがなにもないんだから、あたりまえだ。1年のうち3〜4ヶ月は窓を開けて生活するということを忘れておった。震動もまえよりはましになったが、それでもまだすこし感じる。いくら深く基礎杭が打ち込んであっても地面自体がゆれてるんだからしょうがないような気もする。前は玉石の上に乗っかってるだけだったから何をか言わんや、である。
それで、家を新しくして少したったとき、名鉄に「ロングレールにできんか?」と聞いたことがあった。うるさいのも震動も列車がつなぎ目を通過するときの衝撃が主原因だと思って。
すると、「このへんはちょうどカーブがきついところだでそれは無理。つなぎ目の保守をきちんとやることで対応したい」という話だった。
それで幾年かがすぎ、俺は{レールのつなぎ目を、列車の進行方向に直角ではなく、斜めにすればいいのではないか?そうすれば音も振動を軽減されるのではないか?}と思いついたのだった。
そしてさらに幾年かがすぎ、ここんとこ窓をあけることが多くなって、いよいよそのアイデア名鉄に提案するときがきたかと思ったのだ。あわよくば特許を、でなくても静かになればそれでいい。特許は名鉄に譲って、俺は静けさという恩恵だけ得られればいい、と考えたが、いやいやちょっとまてよ、すでに誰かが考えとるかもしれんぞ?と思って調べてみたら、ビンゴ!俺のイメージどおりのものがすでに製品化され、しかも各所で採用されているのでした。
斜め接着絶縁レール(PDF)
採用しないのは名鉄にやる気がないだけ、ということか。高速道路や、一般道路でも国道302号線なんかはちゃんと防音壁設置してるのに。斜め接着絶縁レールだって防音壁だって、やってやれんことないと思うんだけどなあ。儲けにならんことはやらんか。それで迷惑してるのは直の沿線住民だけだし、その中に株主なんてそうおらんだろうしね。まあとにかく、防音防振対策で恩恵をこうむる人数あたりのコストは、相当高いものになりそうだし。
沿線住民はうるさく思いつつもついついそれを利用してしまう。不条理だよなあ。