『お節介なアメリカ』 ノームチョムスキー(著)大塚まい(訳)★★★☆☆

お節介なアメリカ (ちくま新書)

お節介なアメリカ (ちくま新書)

内容はいいんだが、文章がいけない。原文がいけないんだか、訳文がいけないのか、それはわからない。言語学者だからといっていい文章、というのは俺にとっていい文章なんだが、を書くとはかぎらない。が、訳に問題があるような気がしてならない。
日本語は助詞のおかげで語順がちがっても意味がとおる、とはいうものの、わかりやすい語順とそうでないのというのはあるだろう。
たとえば、153ページ

ここでいう「任務」とはつまり、民主主義を、「強固な連続性」に従い、選挙により誕生した政府にアメリカの要求を呑むように強制することによって、もたらすという意味だ。

というのは、これでいいのか?意図はわからんでもない。「民主主義を」に力点を置きたくないのだろう。しかし、目的語と述語は文章の骨格的要素であって、ゆえにくっついていたほうがいいのではないか。
また、最初に、

訳文中の[ ]の用い方は原著に準じ、〔 〕は訳者が補足的に挿入した部分を示す。なお、( )は読みやすさを考慮して適宜使用した。

とあるが、後ろの2つがやたらと多くて、どうなんだろう、実際それらがないのを読んでないので本当のところはわからないのだが、むしろないほうが読みやすいんじゃないだろうか。
さらに、246ページの最後の行から247ページにかけて、ちょっと長いが引用する。

ヒズボラの活動に関する専門家である、レバノン屈指の学者アマル・サード・ゴライェブは「今回の調査結果は、ほんの5ヵ月前に行われた同様の調査の結果とくらべてみると、なおのこと重要な意味をもつ。その調査によれば、ヒズボラ武装を続ける権利、したがってその抵抗運動を続ける権利があると信じるレバノン人は全体の58%しかいなかったのだ」。
これはよくある動きである。レバノンの『デイリー・スター』の編集記者ラミ・G・ホーリは、「レバノン人とパレスチナ人は、民間人全体に向けられたイスラエル人の執拗で、ますます激化する攻撃に、自分たちと対等な、政府とは別の指導層――自分たちを守り、必要不可欠な貢献をしてくれるリーダーたち――をつくることで応戦しているのだ」と書いている。

これって前段と後段で意味つながってなくない?
後段の「これは」というのはおそらく「民衆がヒズボラを支持するのは」というような意味だろうと思われるが、前段では「ヒズボラを支持する人はそれほど多くない」ということを書いているのだ。しかも、前段は主語はあるけど述語がない。こういう文章は話し言葉でならときどきする人もいるけど、書き言葉で、しかもこうしたちゃんとした本ではまず見かけない。前段最後の“」”から次の“。”までの部分を誤って削除してそれに気づいてないんじゃないだろうか。
何かが抜けているような気がしてならない。そしてそれが何かといえば、「しかしそれでも過半数である」という指摘である。その言葉があれば論理の流れがスムーズになる。「思ったより少なかった」→「それでも過半数」→「多くの人がそうなのはこういう意味がある」というふうに。
ちなみに、引用はしないが、182ページでも閉じ括弧“」”が欠落している。おれが見落としてるだけの可能性もあるので、じっくり肉眼スキャンしたが見当たらない。“「”の次の3行目でその段落が終わり、さらに次の段落では“「”で始まっているので、まず間違いはないだろう。
それじゃあ原文はいったいどうなっているのか?調べてみようと思い、またもやamazon.comなか見!検索を使ってみた。
そうしたら、イカン、テキスト検索ができんくなっとる。

『心臓を貫かれて』マイケル・ギルモア(著)村上春樹(訳)★★★★☆ - 主夫の生活のときのキャプチャとくらべてほしい。おっといけねぇ。Shot in the Heartのほうはいまだにできるではないか。ということは、Kindle Book ではできないのか。そして、右端が切れているが上のほうに“This view is of the Kindle book. A preview of the print book (Paperback edition) is currently not available.”とある。
しかたがないので、amazon.co.ukで見てみたら、

という具合にテキスト検索はできるのでした。しかし、



のように、なか見!検索の範囲外のため、段落ごとでしか見ることができず、そのあいだに何があるのか/ないのか、それを確かめることができないのでした。
ちなみに、UKサイトにもKindle Book 化されたものはありましたが、やっぱりそっちではテキスト検索できないのでした。


ほかにも、文章が何重もの入れ子構造になっていて、[は]とか[が]のつく言葉が4つも5つもあってどれがどの主語なのかわけがわからないということもよくあって困った。しかし、それは丁寧に何度も読み返すことでなんとかなった。が、理解しにくく読みにくく時間がかかった。そんなかたちで、おれはこの本を一回で3度ぐらい読んでいるのではないだろうか。グリコよりもおいしいじゃないか。
USサイトやUKサイトを見たついでに、最初に感じた疑問つまり、読みにくいのは原文のせいか/訳文のせいか、をたしかめるために、すこし原文を読んでみた。うーん、おれの英語力と読んでみた量からしてビミョーなところだけど、訳文よりはわかりやすいだろうな。
英語の特性と、著者の癖だろうが、説明的な節を関係代名詞やing形を使ってどんどん付け加えていくんで、それで訳文の構造が複雑になっちゃうんだろうね。
ちなみにこの訳者の訳した本を以前に読んでないか調べようとAmazonで検索したら、なんとこの本1冊しかヒットしませんでした。

もしかして経験不足?
いま、またもやついでに、amazon.co.jpのカスタマーレビューを見てみたら、やっぱり訳のことに言及してるのがあったわ(内容は良い、しかし翻訳が…)。
そうそうおれも思ったんだよね。タイトルからしてやらかしたなって。「お節介な〜」じゃ軽すぎ。お節介なのはあんたの“〔 〕”や“( )”だろうって。そのまんま『干渉』とか、せいぜい『干渉するアメリカ』ぐらいでいいんじゃないかなあ。
ああ、忘れとった。内容は、言わずもがなのことではありますが、アメリカの政府と富裕層はやっぱりアカンなあ、というお話。それがことこまかに書かれている。上に引用したレビューではちょっと勘違いされているようだけど、この本はほとんどニューヨーク・タイムズ通信社(新聞とは同系列の別会社)がおもに海外に配信したOp-Ed記事(社説の対向ページらしい)の集積のようだ。“おもに海外に”というのは、アメリカ国内にも掲載した少数の地方紙があるらしいから。またニューヨーク・タイムズ本紙に向けて書いた1篇もふくまれている。だから“ほとんど”。
ゆえに、話題が重複しないように気遣いはされているようだし、そのときどきの出来事にからめるので自然と重複しないようになるのだろうが、そこにあるのは最初から最後までアメリカ政府の悪事の数々である。それでも、あきることはない。具体的で論理的だからだと思う。
ちょっと古い本なので、いまではもう状況が変わっちゃってることもあるだろう。オバマが大統領になったのはこの本のあとだし。残念ながら、当方、現状をちゃんと把握していないので、そこんとこはなんとも言えない。それに、アメリカでシェールオイルが実用化されてきて、これからアメリカの中東政策も大きく変わるんじゃないかな。
ただ、なんとなく思うのは、なんだか日本政府もお馬鹿なアメリカ政府のまねをしようとしてるんじゃないか、っていうことだね。お馬鹿をまねしちゃ、お馬鹿の2乗だぜ。