『そして、僕はOEDを読んだ』アモン・シェイ(著)田村幸誠(訳)★★★★☆

そして、僕はOEDを読んだ

そして、僕はOEDを読んだ

4つはちょっと厳しめか。おもしろかったんだけど、物語性がないので読み終えるのに時間がかかった。展開が気になるわけじゃないので、いつ中断してもいいし、いつ再開してもいい。なので、夜ベッドに横になるまで本をまったく手にしない日もあったのだ。
おもしろい言葉がいくつかあった。メモをとりはじめたのは遅ればせながら159ページからで、思えばそれより前にもいくつかおもしろい言葉はあったのだが、ただひとつの単語をのぞき、もはや忘却の彼方である。

Agathokakological (形容詞)善と悪からなる  22〜23ページ

そのただひとつの単語というのがこれだ。メモをとりはじめたとき、それまでに読んだところから思い出すことのできたただひとつの単語である。
どういうときに使う語かまったくわからない。残念ながら、この本では用例はほとんど示されていないのだ。それは各自OEDで調べてネ、ということなのかもしれないが。
[善]と[悪]以外の概念はすべて[善と悪]からなっていると思われるので、おれの考えている意味だとしたら、この言葉は[善]と[悪]以外のすべての概念に対して使うことができる。ただ、いつ使うのかはわからない。

Micturient(形容詞)ものすごく尿意をもよおしている 159〜160ページ

こういうときがよくあるのだ。

Palaeolatry(名詞)古いものに対する過度の畏怖の念 192〜160ページ

懐古(nostalgia)の狂信的なやつかな?

Peccability(名詞)罪を犯しやすい性分 195ページ

罪ぶかい(sinful)とはちょっとちがう。

Pejorist(名詞)世界が悪い方向へ向かっていると考える人 

[P]に入って俄然おもしろい言葉がふえてきた。
いるんだなこういう人が。どちらにも考えれるのなら、なぜ気が楽になる方を考えないのだろう。

Penultimatum(名詞)最後通牒前の最後の要求 

Penultimate(最後から2番目の)とUltimatum(最後通牒)の合成語だって。意味もおもしろければ、成り立ちもおもしろい。ただ、名古屋弁で言ったら〈ドベ2通牒〉だな。
これをメモするとき[通牒]の[牒]の字がかけないことに気がついた。
そしていまチョウチョの[蝶]のつくりが[葉]じゃないことに気がついた。てっきり(幼虫が)葉っぱを食べる虫だから[葉]なのだと思っていた。

Pessimum(名詞)予想される最低最悪の状況 197ページ

有用な言葉だと思う。特に最近。リスクマネージメント関連で。

Petecure(名詞)質素な料理、量的に控えめな料理 

おれ(たち夫婦)の食事だな。さしずめおれたちはPetecurianということかな。

Petrichor(名詞)雨が長く降らず、乾燥していたところに雨が降り、その時に地面から上がってくる心地よいにおい 同〜198ページ

たしかにあのにおいは好きだが、同時にあれはホコリ(砂ぼこり、土ぼこり)ににおいだとも思っている。

Prend(名詞)修繕されたひび割れ 202ページ

コンクリートは圧縮には強いが曲げには弱い、だから鉄筋を入れる、が固まるときに収縮するので、このように(と教室の壁をしめし)ヒビが入りそこをモルタルで埋めなければならない、が道路などではパネルにしたものを敷き、隙間をピッチで埋める、私なんかカブで走っていますとその継ぎ目が気になってしかたがない、とくに加太峠のあたりでは…という、大学のときの赤塚先生の話を思い出す。先生は、ここに出てきた単語のいずれかひとつを口にするとそれがスイッチになって、いつもこの話に入り込んでしまうのであった。そんな赤塚先生にモッテコイの単語である。

Psithurism(名詞)風で落ち葉がかさかさと音を立てること 203ページ

すきな現象のひとつである。

Rapin(名詞)手に負えない芸術科の学生 219ページ

いそうだよな、こういう学生。おれも芸大めざしてたクチなんで、わかる気がする。
スズキのラパンは、「ああこういう意味だったのか」と思ったら、そっちは[Lapin(仏)うさぎ]でした。

Rejoy(動詞)所有者として物を楽しむ 221ページ

たしかこんな名前のシャンプーがあったような気がする。もうすこし高尚な感じの意味もあるらしい。じゃなきゃ商品名にしないよな。rejoiceの動詞形(もとのかたち)だと思うけど、なるほどWeblioには載ってない(rejoyの意味・使い方 - 英和辞典 Weblio辞書)。

Pneumonoultramicroscopicsilicovolcanokoniosis(名詞)肺の病気の一種 228ページ

これは、著者がおもしろいと感じて見出し化した単語ではない。逆に、おもしろくない例として示されたもの。長くて印象的だが、語義がひとつでおもしろくない、と言う。
ぱっと見るとどうやって読んだらいいのか困ってしまうが、実はいくつかの語素(なんて言葉があるのどうか知らないが、単語の要素みたいな感じで)(いま調べたらちゃんとありました)からできており、読むのもそれほど難しくない。Pneu-mono-ultra-micro-scopic-silico-volcano-koniosis。気-単-超-微-鏡的-珪酸塩-火山性-塵肺。全体の明確な意味はわからなくても、なんとなく意味もわかる。ああ、Pnuemonoで[肺の]みたいな意味になるのか。じゃあ、まあ簡単に言うと《超顕微鏡的火山性塵肺》だな。
英語も8割がたラテン語起源だとこの本のどこかにも書いてあったが、なにか新しい言葉を作ろるときは、ラテン語起源の語素を組み合わせるのが常套手段だ。これは日本語で新しい言葉を作るとき漢語起源の語素を組み合わせるのととてもよく似ている。
おれはいっそ、大和言葉起源の語素を組み合わせたらどうかと思うのだが。たとえば、Philosophyを哲学などとせず、[しるごのみ(知る好み)]にするとか。《超顕微鏡的火山性塵肺》なら[とても小さいものも見えるメガネでも見えない火の山からの砂によるちり胸]か。
でも[電子計算機]ごときで行き詰まっちゃうよなあ。まず[電子]が言えない、というか[電]が言えない。無理に言おうとすると、きっと天照国照彦天火明櫛玉饒速日命(アマテル クニテル ヒコ アメノホアカリ クシタマ ニギハヤヒ ノミコト)みたいなことになっちまうのだろう。

Scrouge(名詞)体を押し付けたり、ものすごく近くに立ったりして、人を嫌な気分にさせる、人に迷惑をかけること 235ページ

クリスマス・キャロル』の主人公スクルージはこれのことかと思ったが、そっちはScroogeだった。でも、この単語がもとになっているのかもしれない。
インドやパキスタンでは映画館で一番うしろの席に座っていると、こういうことをしてくる人がいて、文句を言おうと立ち上がると、すかさずその席に座ってくる、という話を聞いたことがある。見習いたいものだ。

Velleity(名詞)行動や努力を伴わない希望、願望 263ページ

つまりおれの夢である《世界の終わりを見てみたい》みたいなもんだ。
これを「夢」と言うのもいささか違和感があったんだが、この言葉であればしっくりくる?

Wailer(名詞)プロの会葬者、お金を貰って涙を流す人 268ページ

著者は

「雇われてお葬式で泣く人」という意味の単語があるという事実は、英語を話す人たちの社会について、どんなことを意味しているのだろうか。まして、そのような単語が1つでは飽き足らず、6つもあるとは、どういうことなのだろうか。

と、どちらかと言えばネガティブなニュアンスで書いているが、近所の韓国人の家の葬式にも〈泣き屋〉さんがいたらしい。そういう話を子どものころに聞いたことがある。〈泣き屋〉は英語圏だけの職業ではなさそうだ。著者さん、安心してください。
Wailersといえば、御存知レゲエの神様Bob Marleyのバックバンド(そういう解釈でいいのかな?Bob Marleyもそのバンドのメンバーならバックバンドはおかしいよね。これって内山田洋はクールファイブのメンバーなのか?っていう問題とおなじかな)。もともとジャズが葬式の楽隊(『007 死ぬのは奴らだ』でその様子が見れる)から発生し、その影響でロックが生まれ、さらにその影響でスカがそしてレゲエが生まれたと考えれば、The Wailersという名前もなるほどだなあ。とおもったら、なんだもとはといえばBunny Wailerのバンドだったからじゃん。でも、Bunny Wailerの先祖は実際〈泣き屋〉さんだったのかもね。