『秘の思想』 柳父 章(著)のつづき

ことさらに日本の特殊性を強調するきらいがあるように感じた。が、それは世界中どこでも似たようなもんだと思う。
たしかに日本は大陸の東端のそのまた東に位置するという場所がら、外来の文化が人をともなわず文化だけで入ってくるということが多かったかもしれない。ゆえに外来の文化を「翻訳語」として受け入れる。それは本来の意味とはズレた解釈で受け入れることであり、その裏にはもっと大きなありがたい意味があるにちがいないと感じることにつながる。それが「秘」されたものほど〈ありがたい〉と感じることにつながり、逆に〈ありがたい〉と思わせるには「秘」するべし、つまり「秘すれば花」である、ということになる。そうやって「秘」の思想が生まれた、という。
しかし、あのローマでも、キリスト教が入ってきたはじめは同じように拒絶し弾圧を加えたではないか。そういう例は世界中いたるところにあると思うのだが。もっとも、ローマではのちにそれを最大限に利用することとなる。そのへんが日本とはちがうところなのかな。
また、日本では、外来の文化が人をともなわず文化だけで入ってくるということが多かったため、16世紀のキリスト教宣教師のような外来の文化をたずさえた外来の人の到来にはうまく対処することができず、キリシタン禁制→キリシタン弾圧→島原・天草の乱→宗門人別帳→身分制度の固定化→部落差別とつながっている、という。
あちこちの学術雑誌等に書いた論文の寄せ集めのため、日本における「秘の思想」とはいささかずれるが、差別つながりということでだろうインドのカースト制についての章がある。それによれば、3500年ほど前にアーリア人が侵入しそれを契機に発生したカースト制度ではあるが、イギリス植民地政府が19世紀に国勢調査みたいなことをするまでは、結構ゆるいものであった、という。それが、日本における宗門人別帳のように[文字]によって固定化され、強化されてしまったらしい。
そういった話を下の子にすると、『カムイ伝』の中に、身分を詐称しようと人別帳のようなものを焼却かなんかしたが、もうひとつバックアップがとってあって、それはかなわなかった、という話があった、といっていた。
バックアップは当時の人でもちゃんと考えていた。そりゃ普通かんがえるだろう。現代においてそれをせずデータがパァ〜になったと嘆いているとは、何をか言わんや、である。
固定化とはそういうことなのだ。
あと、天皇制の話もおもしろかった。[天]という文字が当時かなり流行してて、意味もなく(わからず)いろんな言葉に[天]の字をくっつけて喜んでいたという話もおもしろかったが、[天皇]というのが北極星かそのへんの星の名前なのに、きっと[天]や[皇]という文字のそれぞれの意味を知っている人だろうが、[おほきみ]とか[すめらみこと]をあらわす文字として[天皇]という二文字をあてた、というのがおもしろい。
ついでに[大日本帝国]というのも[強くて立派な日本帝国]という意味ではなく、当時、本州のことを[日本]といったので、まわりの四国・九州・北海道の3島および周辺の小島をあわせた全体を[大日本]とした、らしい。シティ・オブ・ロンドングレーター・ロンドン大ロンドン)の関係と似たようなものだと思う。
まあ、だいたいは、つねひごろおれが考えていることとにたりよったりで、おおいに共感できたので5つとしたいところなのだが、いかんせん、文章の構造が明確でないことと、推論がおおく根拠が明確でないこと(引用はそれなりにあるが)と、その引用が古文の苦手なおれにとってはよくわからない(歌舞伎の台本で苦労しているくらいなので、万葉の時代のものなどてんでわからない)ことなどから、マイナス1とさせておきました。それでも1Ptアップです。
最後に、各章の見出しだけ書きだしておきます。