「100年予測 世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図」ジョージ・フリードマン(著)櫻井祐子(訳)★★★★☆

100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図

100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図

「イン シャ アッラー」を旨とする俺がなぜこういう未来予測モノを読んだのか、その問題は棚に上げといて、なかなか面白かったぜ。翻訳がうまいのか原文がいいのか文章も読みやすく、校正ミスみたいなのもなかった。が、内容が濃いので読むのに時間がかかった。
フリードマンと言ってもノーベル経済学賞ミルトン・フリードマンではない。「影のCIA」とも呼ばれる情報企業のCEOらしい。で、その基本は地政学である。
結論からいうと、21世紀はアメリカ合衆国の世紀だ、ということだ。あの国ももうぼちぼち終わりかな、と思っていたが、そうは問屋が卸さないらしい。とにかく大西洋と太平洋の両方に面しているというのが大きいそうだ。たしかに、地中海が唯一の海だった頃はエジプトや中東、ギリシャやイタリアが覇権を握っていた。大西洋の時代にはポルトガルにスペイン、そしてイギリス、オランダ。そして、大西洋と太平洋の時代ならば…
さて、昨今、中国の経済発展がよく話題になっているが、この本によれば、中国は2020年頃に分裂するという。その元になっているのは、経済発展である。沿岸部には外国資本が大量に入りこんで富裕化する。地方はとり残され貧富の差がはげしくなる。政府は外国資本と富裕層と貧困層のあいだで引き裂かれ、毛沢東による統一以前の地方軍閥が群雄割拠するような状態に戻るらしい。
そもそも、中国は広大な国土を有しているものの、その西の方や南西のほとんどが砂漠や高山といった移動困難な地域で、ある意味、島国だというのだ。ゆえに、世界を揺るがすような大きな係争地帯(著者の言葉では「断層線」)にはならない。
BRICsなんて言葉があるが、ブラジルもアマゾンのジャングルとアンデス山脈で分断されており、やはり、一種の島国で、特に問題にはならない。インドも北はヒマラヤ南はインド洋で同様である。
問題はロシア。西はヨーロッパ、南はコーカサス諸国や中央アジアの「〜スタン」の国々に接している。今ロシアは資源国として、儲けているだけでなくそれを外交の武器にして頭角を表している。やがてはコーカサス諸国や中央アジア旧ソ連領の国々もロシアの支配下におかれる。が、やはりそれこそが没落の原因なのだ。資源国路線で味をしめたロシアはそれを変更できない。ゆえに、新しい技術についていけなくなり、人口も減って、自壊する。
そして、そこに目をつけたポーランドが東進・南進をくわだてる。ロシアの羽振りがよかったとき、それにおそれをなしたアメリカ合衆国ポーランドに大量の資本を投入し、ロシアを牽制しようとした。それでポーランドは十分な力をつけてきたのだ。
ところが、それをよく思わないのがトルコである。俺にとってはちょっとダークホース的なのだが、考えてみればかつてはオスマン帝国、吉本の小籔ではないが「いまはこんなんやっとるけど昔はあんなんやったんや」ってぇやつで。すでにコーカサス中央アジアに進出しており、そして東欧諸国をめぐってポーランドと対峙することになる。
ところで日本は、少子化の解決策として太平洋に進出している。それがアメリカ合衆国の利害と対立する。そこでトルコと手を結んで(もともとなかがいいからね)アメリカ・ポーランド同盟の出鼻をくじこうとする。そこに没落していたドイツも引っぱりこむ。
そのころの戦争は、基本的には極超音速ミサイルによるピンポイント攻撃なんだが、敵地を占領するにはやはり歩兵が必要で、歩兵はパワードスーツを着込んでいる。パワードスーツを動かすには電力すなわちバッテリが必要で、そのレベルでの攻撃はもっぱら発電所・送電網・輸送中のバッテリが対象となる。
トルコはポーランドの電力システムを徹底的に破壊する。ところがポーランドの機甲歩兵は動きを止めない。アメリカ合衆国は宇宙太陽光発電・マイクロウェーブ送電を大急ぎで実用化してしまったのである。
まあ、そんなわけで、やっぱりアメリカ合衆国側が勝利する。ちなみに、前回の世界大戦では5000万人ほどが死んだが、今度の戦争で死ぬのは5万人ぐらいだという。攻撃の精度が良くなって総力戦にならないからだ。アメリカ合衆国にいたっては数千人と読んでいる。
戦争景気でアメリカ合衆国はおおいに景気がよくなる。しかし、またもや、それがやがて来る混乱の原因となるのだ。まことに、人間万事塞翁が馬である。
景気がいいので地続きのメキシコ(こちらも合衆国)から、どんどん移民が流入する。景気がいいのではじめはそれを歓迎している。でもやがてだぶつき始める。そこで政策転換をしようとする。ところがそう簡単に事は運ばない。それが紛争の種になる。
21世紀はアメリカ合衆国の世紀とまえに書いたが、22世紀はどうなるかわからない。大西洋と太平洋に面しているのは北アメリカ大陸であって、北アメリカ大陸の覇者はアメリカ合衆国とは限らないのである。
まあ、こんな感じなんだが、北朝鮮のことなんかこれっぽっちも出てこないぜ。韓国も。アフリカのことも。ついでにオーストラリアもね。